日浦孝則のL.A.レポート
1995年にGBで連載したものです。
*ロスへいくぞ!
機内は結構込んでいた。僕達はエコノミークラスの最前列で、すぐ前がビジネスクラスの席なんだよね。カーテンで仕切られるようになっていて、食事時とか、何かある度にスチュワーデスさんが、そのカーテンを2?3分閉めてまた開ける。その度に僕達は何だ何だ?と顔を見合わせてはキョトン。いったい何をしてるのかなあ?今度、海外に行く時は、あの“カーテンの向こうの秘密?”を知るべくビジネスクラスでいきたい。
7月27日、成田18:00発、そして同じ日の13:00着、快晴、アメリカの玄関口“ロスアンゼルス空港”に着く、時差の関係で過去の時間にさかのぼったわけだ。
先月のニューヨークの旅に続いて2ヶ月の間にアメリカの二大文化都市を見れるなんて!ありがたい。“音楽が僕をここまで連れてきたのさ、うんうん。”と勝手に思い込むひとときがありましてシャトルバンに乗り込む。
さて、ロスといえば“青い空!”、“背の高い椰子の木!”、イメージのままの風景が窓の外を流れる、そして通りには“ファラフォーセットメジャーズのような女の子がいっぱい(東野純直君が言っていた。)”…..これは残念ながら違っていた、みんな不健康なくらい太ってるっすよ!
いよいよスタジオ初日。このスタジオは多くのビッグアーティストが使ってる有名なスタジオだ、外からはとてもそんな風に見えない、煉瓦作りがいい。
そしてエンジニアのフランシス・バックリーとご対面!、ウイルソンフィリップスのCDに彼の名前を見つけ、彼と一緒に仕事をしたいために、わざわざロスまでやってきた。 とても気さくで真面目、40才という年齢には見えない。最後まで気持ち良く仕事が出来たのは彼のそんな性格と、音楽をこよなく愛している事に依るところでしょう。僕達とは違うものが聞こえる耳を持ってるに違いないと思えるほど、リミックス1曲ごとにみんなを驚かせる、終わりに近付くにつれて、その驚きが快感にになった。
先日、武道館のデビッドフォスターのコンサートで見たプレイヤーの人達がスタジオに入ってきて、まずは“Holiday”のサウンドトラックを録音した。そんな凄腕の青い目のミュージシャンを相手に、ああだこうだと指示する緊張感が、おこがましいやらワクワクするやら面白かった。最後に黒人女性コーラスを加えて新生“Holiday”が誕生した、それはそれは気持ちのいい音です、早くみんなに聞いて欲しいなあ!
とりあえずロスに来たら一度はみんな行くと言う“ビバ・セン(この響きがとってもおのぼりさん的でいい!)”で買物だ、一階には有名なハードロックカフェがあ。
そしてここはあの映画“ターミネーター2”でシュワちゃんが薔薇の花束からショットガンを取り出してT1000に発砲してた、そのあたりのシーンの舞台になった建物だ。あの通路はどこだろう?あのゲームセンターは?とか想いながらウロウロしてたら、別のものを見つけてしまった、コンピューターソフト屋さん!。まあ覗くだけと思って入ったんだけど買ってしまいました、Mac用ゴルフゲームと“2001年宇宙の旅”風ゲームのCD-ROM。そのあと靴屋さんでスニーカーを2足買った。
みんなと待合せの上の階の“パンダハウス”とか言うチャイニーズの店のやきそばが、なぜか“広島風お好み焼き”を思い出させる味付けでうまかったな。
最後にみんなで映画館へ行った、シュワちゃん主演の、とりあえず話題になっていた“True Lies”を観た、もちろん字幕はないので最初はシリアスアクション映画なのかなあ?と思いながら見始めたら、やたら他の客が笑う。あっそうか!これはコメディーなのかと、結構時間がたってから気付いた。そっから僕も堂々と笑わせていただきました。だけど、こんなにコメディーに金かけていいの?ってくらい金がかかってました、最新鋭の戦闘機は出て来るし、橋は爆破する、彼の初期の主演映画“コマンドー”みたいな映画だった、結構おもしろかった。安くてすごい量のポップコーンにコカコーラ、映画終わってもまだ食べ切れなかった。
“ハリウッドサイン”と言えばみんなテレビとかで見て知ってると思う、“HOLLYWOOD”っていうちょっとねじれた白い看板。ニューヨークが自由の女神ならロスはハリウッドサインだと勝手に僕は決めている。ちなみにこの看板の“W”はアンディーウイリアムスさんが維持費を出しているらしい。むかし“1941”という三船敏郎さんも出ていた洋物の喜劇映画のなかで、日本の潜水艦が海からこの看板を攻撃するシーンがあったので、てっきりこのハリウッドサインは海の近くにあると思い込んでいたのだけれど、けっこう内陸部にあったのが意外だった。
とういうわけで、映画ファンとしては行かなけりゃと思い、ユニバーサルスタジオに行ったんだけど、ちょっとイメージと違っていた。あんまり面白くなかったなあ、“バックトウーザフユーチャー”に出てくる時計台は良かったが、池から出てくるジョーズの“はりぼて”には笑ってしまった。
そしてアトラクションブースに入るために一時間以上も並んでいた人たち、あっ、アメリカ人も並ぶんだ!と変なところに驚いてしまった。
やっぱロスに来たんだから何かコンサート見に行こうぜ!ってことで、やってまいりましたグリークシアター。ドウービーブラザースとフォリナーのジョイントコンサート!やったー。ドウービーがメインかなと思ったら、意外にもフォリナーがとり、すみません、なめてました。音を聞いて納得、フォリナーはよかったなあ、“Girl like you”を筆頭にほとんど知ってる名曲!演奏もとても良くて、改めてフォリナーの実力を見直した。
ロスは自家用車がおもな交通機関、だからみんな車で来る来る!山道の駐車場に車を置いたら最後、“黒山の車だかり”状態。コンサートが終わって回りの車が出るまで途中で帰ろうなんて無理。何か“おおらか”でいいです。
ビデオ撮影は、はっきり言ってきつかった。前日の午後11時までスタジオでミックスに立ち会っていて、次の朝、ほとんど寝られない状態で午前3時出発。この日は40時間くらいは起きていた。
ハイウェイを東にドライレイクに向かう車中で見た夜空はすごかった。星が降るような空、なんでこんなに大きいの?ってくらいのオリオン座、日本で見るより4倍くらいあるように感じた。そして作り物かと思うくらい美しい月、これまた大きくて空に風船のように浮かんでる、それから“危ない!”と思わずよけたくなるような流れ星…..綺麗だったなあ。
午後になって本物のウエストコースト、マンハッタンビーチというビーチに行った。海岸から唐突に桟橋が突き出している、桟橋と言ってもとても大きくて綺麗。ジョディーフォスターの“君のいた夏”が思い浮かんだ、海岸沿いの道はジョギングする人、ローラースケートする人、散歩する人、テレビとかで見た最もスタンダードなビーチの風景が余りにもあたりまえに目に入ってくるのが面白かった。そんな中でビデオ撮影をしているアジア系の一群、僕達だけが浮いていた。
ホテルのあるハリウッドからフリーウェイを北に一時間、絶叫マシンで有名らしいマジックマウンテンに行った。ジェットコースターには生まれて2回くらいしか乗ったことないのでワクワクしながら列に並ぶ。
まずは“バイパー”から、ガタンゴトンとリフトを登って行く、「まだ上がんのか?えー!」と絶句するくらい高い(ちなみにビルの18階の高さだそうだ!)。下を見ると足がすくむし、心臓の鼓動は恥ずかしいくらい速い、“とまったー!”と思う間も無く、急降下と言うより急落下状態、今までこんな恐いことあったでしょうか?ってくらい恐かった。フラフラしながら降りてくと、どこで撮ってたのかマネージャーの“つっちー”のひきつった顔と、その隣りで大きな口を開けている自分がビデオに写ってるじゃありませんか!金を払ってまでねー、写真にはしないよねー?。
続いて“ニンジャ”、これはまあまあだったかな、そろそろ落ちる感覚にも慣れた。
次は、ただ落ちるだけの“フリーフォール”、待つこと一時間、やっと自分達の番が来た。“ただ落ちるだけだもんな、しかも一秒もないしな”って思ってたんだけど、すいません、なめてました。ストーン!の後、もうなにが何だか分からない、“好きにして状態”のまま終点へ、これが結局一番すごかった。
あとは、足ぶらぶらでひねり、回転の“バットマン”、最後に世界最大の木造ローラーコースター“コロッサス”で締めくくった、辺りはもうすっかり日が落ちたので、高さがそんなに気にならないし夜風が気持ちいい、おまけに花火で満足満足!、ロスに行ったら絶体にここだけは来た方がいいと思うよ。
となりのスタジオでたまたま安部泰弘さんがニューアルバムのレコーディングをされてたので、いつのまにか顔見知りになった。それが縁で僕達 class は初めて自分達以外のレコーディングで歌うという、貴重な体験をさせていただいた。
安部さんを挟んで僕達、三人で1本のマイクに向かう、面白くて楽しかった。安部さん、ありがとう!、ただお腹がすいてたので、何度か“グーッ”って腹が鳴ってるんですけど、分かんないですよねえ?
アルバムの方はいよいよ最終段階を迎え、バーニーグランドマンのマスタリングで仕上げが行われる。バーニーは、例えば“マイケルジャクソン”や“プリンス”その他多くのビッグアーティストのマスターリングを手掛けている、またここで音が変わった、元気にそして気持ち良く仕上がった。
なぜあんなに気持ちのいい音のレコードが出来るのか?確かにはつかめなかったけど、いいものを“いい”と言える気質が“アメリカンドリーム”を支えてきた。この国にも流行はあるけれど、それ以上に聞く側の感性が優っているように思える。だから色んなジャンルの音楽が廃れずに元気でいる。やっぱり音楽の歴史の重さを感じずにはいられない。
8月12日、日本へ向かう機内で出来上がった僕達のベストアルバム“CLASSIX”を聞きながら、赤ワインをたらふく味わっている。
音楽においては、もう自分の中に国境は無くなった、みんな音楽を愛してることに変わりはない、たまたま僕達は日本で音楽を作っている、フランシスの音が欲しくてたまたまロスに来ただけなんだ。そうやって音楽で世界中の人達と知合いになれたら嬉しい。
いつかこの国の人にも楽しんでもらえる歌も歌いたいなあ、頭の中で、まだまだ延々と続く音楽の旅を想いながら帰途についた。